コラム
2026/05/14

事業者間における情報交換と独占禁止法上の注意点

1.なぜ「情報の交換」が法に触れるのか

独占禁止法(以下「独禁法」)が最も警戒するのは、ライバル企業同士が価格や数量をあらかじめ相談して決めてしまう「カルテル(不当な取引制限)」です。2026年現在、サプライチェーンの強靭化や脱炭素への対応など、企業間連携の必要性は高まっていますが、その過程での不用意なコミュニケーションは依然として大きな法的リスクを孕んでいます。

(1) 「意思の連絡」という違法の壁

カルテルが成立するために最も重要な要素は「意思の連絡」があったかどうかです。これは単に「契約」を交わすことだけを指すのではありません。
• 暗黙の了解もアウト:過去の重要判例(東芝ケミカル事件等)によれば、相手の出方を予測し、それに歩調を合わせる「暗黙の認容」があれば意思の連絡とみなされます。
• 推認の法理:価格などの機微な情報を交換した後に、各社が足並みを揃えて値上げをした場合、特別な事情がない限り、意思の連絡があったと推認されてしまいます。

2.交換していい情報、いけない情報

すべての情報交換が禁止されているわけではありません。リスクを判断する基準は、その情報が「競争の不確実性」を損なうかどうかです。

(1) センシティブ情報(高リスク)

以下の情報を競争相手と直接やり取りすることは、極めて危険です。
• 価格関連:販売価格、値上げの幅・時期、値引きの基準など。
• 数量・計画:生産量、販売目標、設備投資の具体的計画。
• 顧客・販路:個別の取引先名や、特定の顧客に対する営業戦略。

(2)センシティブ情報(低リスク)

以下の情報の交換は、通常は問題になりにくいとされています。
• 一般的・学術的な技術情報。
• 社会問題・環境問題(脱炭素など)への対応に関する一般的方針。
• 法令遵守や福利厚生に関する情報。

3.リスクを抑える「情報の加工」と「人の隔離」

業務上、どうしても情報交換が必要な場合には、以下の「守り」の策を講じる必要があります。

(1) 情報の概括化(アグリゲーション)

生データをそのまま渡すのではなく、相手が自社の具体的な戦略を予測できないレベルまで加工します。
• 粒度を下げる:顧客別の数値ではなく、地域全体や製品カテゴリー全体の合算値にする。
• 鮮度を下げる:現在や未来の計画ではなく、一定期間が経過した「過去の実績値」のみを共有する。

(2) クリーンチーム(Clean Team)の設置

M&A(企業結合)や大規模な業務提携の検討において、詳細な情報精査が必要な場合に使われる手法です。
• 営業担当者の排除:相手の機微情報に触れるメンバーを、価格決定権を持つ「営業部門」から完全に隔離します。法務や財務、外部アドバイザーなどでチームを構成します。
• クーリングオフ期間:プロジェクトが破談になった場合、クリーンチームにいたメンバーは一定期間(最後の情報共有から1~2年程度)、当該事業の営業活動から離す人事措置をとることが推奨されます。

4.2026年の最新トピックと特別ルール

(1) 経済安全保障に関連した事業者の取組における独占禁止法上の基本的な考え方(2025年11月公表)

サプライチェーンの維持を目的とした連携については、最新の指針で柔軟な判断が示されています 。
• 緊急時の配分調整:重要原材料の著しい不足が発生した緊急時には、行政の指導に基づき、調達先や数量の情報を共有して配分を調整することは、原則として問題ありません。
• 平時のリスク管理:サプライチェーンの脆弱性克服のための情報交換も、合理的範囲内であり、情報遮断措置(クリーンチーム等)が講じられていれば適法とされます。

(2) AI・アルゴリズムによるカルテル

2026年現在、各社が導入しているAIによる自動価格設定(ダイナミック・プライシング)が、人間が意図せずともアルゴリズム同士で同調してしまうリスクが指摘されています。自社のAIがどのような理屈で価格を決めているかを把握し、管理する体制が求められています。

5.実効的なコンプライアンス体制の構築

2026年3月に公正取引委員会が公表した最新の「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムのためのミニガイド」に基づき、企業がとるべき対策をまとめます。

(1) 経営トップのコミットメント

コンプライアンスは「形」だけでは不十分です。
• トップの言葉:「不当な利益は1円たりともいらない」「利益よりもコンプライアンスを優先する」という明確なメッセージを、全役職員に繰り返し発信することが重要です。

(2) 現場の行動指針(Do & Don’t)

• 会合への参加:他社との会合は事前に目的を申請し、承認を得る。記録(議事録)を残す。
• 話題の拒絶:価格や顧客の話題が出たら即座に拒絶し、その場を離れる。これを記録化する。
• 内部通報制度:違反の兆候を見つけた際に、不利益を恐れず声を上げられる文化と制度を整える。

6.もし違反の疑いが生じたら

万が一、社内で違反の疑いが発覚した場合は、一刻も早い初動が重要です。
• リニエンシー(課徴金減免)制度:公正取引委員会の調査が始まる前に自ら申告すれば、課徴金の免除や減額が受けられます。1番目の申告者は全額免除となります。
• 調査への貢献:申告の早さだけでなく、事実解明にどれだけ協力したかによっても減額率が加算される仕組みになっています。


7.まとめ

近時のビジネスにおいて、企業間連携は不可欠な戦略です。しかし、「協力」と「競争の制限」は紙一重です。情報交換の「目的の正当性」「情報の加工(概括化)」「適切な主体管理(クリーンチーム)」の3点を常に意識し、経営トップから現場までが一体となったコンプライアンス体制を維持することが、企業の持続的な成長と信頼確保の鍵となります。
事業者間の情報交換における独禁法上のコンプライアンスについてお悩みの企業様は、この分野に詳しい専門家にご相談ください。 

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